読んでためになった本の紹介、感想を書かせて頂きます。
第一弾として、伊藤穣一氏著「9(ナイン)プリンシプルズ」早川書房 を紹介させて頂きます。
元マサチューセッツ工科大学教授・元MITメディアラボ所長である伊藤穣一氏の著書です。
時代が変わった。時代を定義付ける三つの条件とは?
変化の激しい時代に入り、いわゆる勝利の方程式のようなものもどんどん移り変わり、今の時代を定義づける「非対称性」「複雑性」「不確実性」の三つの条件があると、著者は言います。
世の中が少しずつ便利になりながら、その複雑さも増していく中で、定義できることと言えば、上記三つの条件のような捉えようのない時代になったということくらいなのかもしれません。
そんな捉えようのない時代に生き残っていくには、我々自身が、これまでの成功の法則をこれからの時代にあったものに書き換えていかなければならない、ということがまとめられた、とても読み応えのある本です。
9つの原則とは
9つの原則の一つ一つのキーワードがシンプルながら非常にインパクトがあり、刺さってきます。確かに今は、そしてこれからは、もう今までとは違う時代になったのだろうと納得させられます。
そして、その解説を読み進めると、これが奥深く、読み込んでいくと、何か賢くなったような気になります。
二回読んでみれば、一回目に気付かなかった新たな発見、理解がたくさんあるような気がして、近いうちにまた読み返したいと思っています。
或いは、自分のビジネス体験の中で、時代の変化を痛感させられた時に、本書にそのヒントを見出し、改めて腹落ちするのかも知れません。
では、9つの原理を一つずつ見ていきましょう。
1.権威より創発
詳細の内容は是非本書を読んでみて下さい。
ここでは、自分の感想を中心にまとめさせて頂きます。
これまでのビジネスで活躍する人とは、誰もが認めるような優れた人、ある分野に最高に長けた非常に分かりやすい勝ち組の人だと思われてきました。
今まではそういった、人を従わせる威力を持つ人や、権威が重要視されていました。
しかし今は、何者でもない人にも、多くのチャンスが与えられる時代になりました。
その人が誰なのかよりも、何をつくって、何を発信しているのか、中身が問われる時代になったのだと、理解しました。
著書では、クラウドファンディングで、アイデアに投資してもらうことや、個人やフリーランスでも実力さえあれば世界のコミュニティを活用できるといった事例に触れています。
「創発」という言葉は自分にとっては聞きなれない言葉でしたが、コトバンクによると
要素間の局所的な相互作用が全体に影響を与え、その全体が個々の要素に影響を与えることによって、新たな秩序が形成される現象。
kotobank.jp/word/創発-552975(新しいタブで開く)
とあります。
例えばSNSでの個人の発信力も、優れた人は相当な拡散力を持っているし、ネット炎上などのスピード感、パワーは、かつての大衆向けの権威だった新聞やテレビの影響力を凌駕する程になっていますね。
このように、かつては権威の前にはなすすべもなかった個人やコミュニティが、デジタルの進化などによって、対等に渡り合える影響力を持てる時代になったということです。
2.プッシュよりプル
タイトルを見ただけで自分が思いあたったのは、自分も最近特に、興味の無いものを売り込まれたりすると、強い拒否反応が出てしまうようになったことです。
押し売りのような一方的なプッシュの手法が通用しなくなり、プラットフォームのように双方向のやりとりがあり、お客様に自由に入ってきてもらうような引き込む力、即ちプルの力が求められているのだと理解しました。
本書では、プルの力としての、引き込む戦略についても説明されていますが、
引き込みの論理は需要が出てくるまで供給をそもそも生み出しさえすべきではない。
「9(ナイン)プリンシプルズ」早川書房 伊藤穣一 著
このように、ひたすら需要次第であり、供給は需要が生まれ出た後からでいいという考え方だと理解しました。
このことは、従来の製造業、サービス業が、商品・サービスを売らんがために作り込んでみたものの、蓋を開ければ、需要とのミスマッチがあり、いくらプッシュしても売れない、というよくある事態を回避することにつながります。
そういう意味で、売り手も買い手もお互いのリスクを軽減できる良い時代になったのではないでしょうか。
3.地図よりコンパス
地図のように、目的地の詳細情報を何丁目何番地まで特定し過ぎてしまうと、変化の激しい時代には別の道を探したり、回り道したりといった、軌道修正が効かなくなるという点で融通がきかない。
それよりも、独自性を加えたり柔軟に対応が出来るコンパスで、目的地の方向性を大まかに把握できている位の方が軌道修正ができていいということと理解しました。
情報化社会で、情報を詳細に取ることは、いくらでも可能になったが、あまり決め過ぎてしまうのも、変化への柔軟性に欠けるのだと、自分はそう理解しました。
4.安全よりリスク
これは、本書のこの一言に尽きると思います。
つまり新しいルールは、リスクを受入れろということ。
「9(ナイン)プリンシプルズ」早川書房 伊藤穣一 著
SNSや3Dプリンタのある今の時代において、何か新しいことを始める前に、失敗しないように調査したり議論する時間とコストがあったら、今すぐ始めてしまった方が良い。
という、リスクの性質が変わってきていることを伝えており、むしろそういったリスクを積極的にとって、まずスモールスタートした上で、結果を見てからやるかやらないのかをさっと決めていくことが、企業や個人の繁栄には不可欠だと伝えています。
自分もリスクテイカーという言葉が好きで、そうありたいと気持ちの中では思っていますが、それは単に、未知の可能性へのチャレンジャーとしてカッコ良いのではないかという浅い考えからであったようか気がしてならない。
本書ではリスクテイカーであることが、安全を守ろうとして慎重になり、検証に時間や労力をかけるよりもコスト安であり、むしろ本当の意味での安全であることが強調されている。
逆に、変化の激しい時代の中で、現状維持や守りの姿勢では、あっという間に商品やビジネス自体が陳腐化してしまい、その方がよほどリスクである、といった逆転現象が、説得力をもって解説されている。
5.従うより不服従
イノベーションには創造性が必要で、しばしば制約からの自由を必要とする。 進歩のためにはルールを破らねばならない。
「9(ナイン)プリンシプルズ」早川書房 伊藤穣一 著
ルール無用、というのではなく、イノベーションの為に、ポジティブな社会に役立つ不服従、ということでした。
欧米に追い付き追い越せでやってきた時代とは違って、前例や答えが無い中で、どこにチャンスがあるのかを自らつかみ取るには、決められたルールや、行動範囲をはみ出して、ものを考えることが大事になってくるのだと、思います。
6.理論より実践
これも変化のスピードが速い時代には、考え込んでああだこうだと議論している間に、現状がどんどん変わってしまうという部分で、それなら即実行に移した方がコストが節約できる、といった内容で、4の「安全よりリスク」に似たような原則だと思いました。
これからは、不確実なことを慎重に調査して議論して、実態を知ろうと時間をかけるよりも、実際に動いてやってみて、うまくいくかどうかも含めて一つの答えを出してしまった方が早く、コストもかからないということなのだろうと思います。
7.能力より多様性
クラウドソーシングなどの新しい成功パターンとして、専門分野以外の人が加わることで、問題解決の効率が上がるということです。
確かに専門バカという言葉もありますが、なじみのない分野での、ふとした素人的発想が、イノベーションを引き起こす事例は昔からあり、専門家は知り過ぎて逆に固まって思考が膠着してしまうという側面があるのかも知れないと思いました。
8.強さより回復力
守りを固めて、絶対にやられない強さを身につけようとしても、これもまた変化の激しい時代には難攻不落の要塞は無いので、絶対的な強さで守り切るのは難しいと指摘されています。
サイバー攻撃も、守りより攻撃の方が圧倒的に有利であり、もはや全てを予測して守りきろうとするよりも、やられる前提で、回復に必要な柔軟性や回復力を重要視した方がいいということです。
9.モノよりシステム
あらゆるものが、スマホアプリの一つに置き換えられてしまう可能性がある時代に入りました。
デジタル技術の進化が、より個々の顧客ニーズに寄り添ったモノづくりを低コスト化しており、アズ・ア・サービスのように、モノからコトへの動きのような、システム化が求められているのだと理解しました。
まとめ
9つの原理は、「○○より△△」という対比になっており、一見重要に見える前者〇〇が、実はもうベストではなくなっていて、実は後者△△を重視しなければいけないという、短いながらインパクトのあるキーワードに集約されています。
ビジネスにおいて、これまでのノウハウや経験など、今まで強みだと思っていたことが、実は変化の激しい時代において、足かせになってしまったり、個人でそこまでのリスクを負った戦いは出来ないと思えるようなことも、デジタルツールと考え方をうまくすることで低コストのイノベーションが可能になり、チャンスをつかめるという、大きなパラダイムシフトを目の当たりにした気がします。
自分も、分かった風な顔をして、若い人に、もうちょっと良く考えて、こんなリスクがあるんじゃないの?と言ってしまいがちだが、これからは、行動実践にはポジティブに身軽になった方がいいし、慎重になり過ぎて、前向きな議論に自分がブレーキをかけていないか、自分が組織の阻害要因になってしまわないように、これらのキーワードを頭に入れて、自らの行動、言動をしっかりとチェックしていきたいです。