開催国の意思決定
オリンピックは、自国が開催国ではない場合、
早くても開催の1か月前とか、せいぜい
1~2週間前に、自国の選手が五輪開催国に向け
飛び立ったというニュースを見てから、
いよいよかと徐々にオリンピックのムードが
高まっていくものだと思いますが、
東京オリンピック・パラリンピックについて、
去年延期となってからも、日本人はずっと
当事者意識をもち、高い関心をもってきました。
そして今5月になりましたが、いまだに7月に開催
するのか、しないのか、はっきりしていません。
新型コロナの感染拡大が納まらず、緊急事態宣言
が延長されるなどしている中で、
となり、さすがに開催できないよなあという機運
の中、聖火ランナーだけは着々と東京に向かって
集まっているという奇妙な状況です。
話題の商品がお得に試せる【サンプル百貨店】米マスコミもさすがに言及
そして、さすがに米国のワシントンポスト紙が
日本に東京五輪の中止を促す記事を出してきました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE063CK0W1A500C2000000/
日本経済新聞 日本に東京五輪中止促す 米ワシントン・ポスト
記事では、国際オリンピック委員会(IOC)の
バッハ会長を「ぼったくり男爵」と非難しています。
世界平和を究極の目的に掲げたオリンピックですが、
もはや、オリンピック開催に向けた推進力は
お金が主導しているのではないか、との指摘で、
確かにIOCは、IOCにとっての最大顧客である、
米国放送局「NBC」の顔色ばかりうかがっている
ようにも見え、無観客でも放映権料収入さえ入れば
いいという腹の内が、透けて見えるような気がして
しまいます。 しかし、五輪開催による感染対策の
費用負担や、医療リソースの確保も、開催国である日本の
責任においてやらねばならず、それでいてインバウンドなど
の観光収入などは、まるまる入ってこないので、
開催することで、経済効果があるのかどうかも
よくわからなくなってしまっています。
おまけに、東京五輪をきっかけに世界に感染を
拡大させてしまったり、世界のトップアスリートが
感染して亡くなってしまったら、一大事であり、
人類がウイルスに勝利した証でも何でもなくなって
しまいます。 日本が五輪開催に向けて
ここまで積み上げてきたものが大きいとはいえ、
記事の指摘のように、五輪中止で損切りした方がいい、
という見方も正しく見えてきます。
自国のイベントの行方を自分達で決められないのか
前述のような記事が、世界に影響力をもつアメリカの
有力紙、ワシントン・ポスト紙から出てくると、
アメリカの放送局、「NBC」の意向にも影響を
与える可能性が高く、そうなればさすがにIOCも、
「お金じゃありません」と、軟化していき、
そんな、五輪中止もやむを得ずの空気が出来上がって、
やっと日本の総理大臣か、東京都知事が開催中止を
口にできるようになるのでしょうか?
私は、このように外圧が無いと決断できない
リーダーシップの欠如が日本にとってとても
大きな問題だと思います。
感情的なムードに流されて、冷静に考えれば
誰でもできるような意思決定が、下せなく
なってしまうという、空気を読み過ぎて、
忖度しまくる日本人の悪い部分が出ていると
思います。 今回で言えば、一番力の強い、
アメリカのNBCから順に意向を聞いていって、
右へならえするだけというスタンスでは、
自らの主体的な意思決定とは言えず、
結局後になって自らが一番割を食うのでは
ないかととても危惧しています。
意思決定の遅れが生むリスク
新型コロナのパンデミックでは、各国、各都市、
各町の「長」のリーダーシップ、意思決定が
クローズアップされてきましたが、ワクチンの問題
しかり、不確かなものについて、考え、リスクを取って
先を予測して動いていかねば、まわりの人が失敗するか、
成功するかの結果を待ってから動いていると、
意思決定が遅れ、その分、自国民、自分のエリアの
住人をかえってリスクにさらしてしまうという、
難しい局面がそこら中にあります。
慎重であることはもちろん大事なことだと思いますが、
慎重であることと意思決定が遅いこと、
意思決定しないこととは同じではありません。
逆に慎重であるからこそ、早めに
手を打つ必要が出てくることも少なくありません。
誰のためのオリンピックなのか
100年前のスペイン風邪を例にとれば、
感染流行は2年以上は続いていたので、
2022年までは続くという想定がなされても
おかしくありません。
ましてや、今回の新型コロナのように、
各国によって、感染の被害状況がバラバラで
変異株など状況がどんどん変化していく場合、
自国だけがうまく感染拡大を抑え込めたとしても、
他国がパンデミックで苦しんでいる時に、
自分達だけ準備OKだからと、世界的な平和の祭典
であるオリンピックを開催してお祭り騒ぎするのは、
人道的にいかがなものかという話にもなるでしょう。
しかも、日本は先進国の中では圧倒的に
ワクチン接種で出遅れてしまい、東京五輪までに
多くの日本人が接種を済ませているという
状況は、もはや期待できません。
従って、菅首相が当初から掲げていた
「人類がウイルスに打ち勝った証としての」
東京五輪というのは、7月には不可能だという
ことも見えてきます。 そして、他国においては
国の宝であるトップアスリートを、国民のほとんどが
まだワクチン接種もできていない状況の日本に、
送り込んでくれるか?という問題も出てきます。
また、各国が選手を日本に送り込んでくれたとして、
日本の受け入れ準備がどこまでできるかという問題もあります。
コロナ対策費用や、医療の負担がオリンピックに
割かれ、例えばワクチンが五輪選手に優先されるなど
言われていますが、不足する医療リソースの奪い合いが
発生してしまう可能性は、きちんと解消できるのか?
また、各国が選手を出さず、ボイコットが相次いだ場合、
そんな中で日本人のメダルラッシュが起きても、
海外の視聴者は、世界のスポーツの祭典として
楽しめるのかどうか?
オリンピック・パラリンピックは誰のためのもの?
という根本に立ち返る必要があります。
期限を決める
自分の仕事に置き換えて、意思決定する
ために重要なことを考えると、まず最初に
いつまでに意思決定をする必要があるかを
逆算して考えます。
国内外の五輪代表選手の選出など
どこまで進んでいるのか、自分には分かりませんが、
6月に、「開催します!」と言われて
7月に来日できるかというと、どうなのでしょう?
オリンピックにかけるアスリートの気持ちとしては
いつ言われても行けるように、ずいぶん前から
しっかりと準備している選手もいるのだろうと
思いますが、やはり、「えっ?やるの?」と何も
準備していない国もありそうな気がします。
開催が正式決定した時点から代表を選考したり、
準備を始める国もあるかもしれませんから、
ホスト国としては、3月末位までには開催の
意思決定をしておくべきだったと思います。
5月の現時点でもまだ意思決定できていない
というのは、何が何でも開催したいという感情が
意思決定に影響してしまっており、冷静な
判断とは思えません。 五輪誘致のロビー活動から
はじまり、国立競技場も建て替えましたし、
内情は知りませんが、色んな大金が動いており、
引くに引けなくなってしまったということでしょう。
何をもって意思決定するか
まず、開催国日本の感染状況やワクチンの
接種率がどの程度とか、細かい分析をする前に、
世界全体で、先進国も途上国も含めて
この新型コロナのパンデミックが収束して
いるかどうか、ということが最初に来るべき
だと思います。 日本だけが準備OKだった
としても、世界で感染が拡大する状況で
強引に開催すれば、反感を買うでしょう。
苦労してつかみ取った五輪開催国なので、
思い入れが強すぎてしまうのも分かりますが、
意思決定者のスタンスとしては、明確な基準を
先に設定して、毎日の感染者数の増減に一喜一憂する
のではなく、いつまでにこの基準を超えたら中止する、
この基準未満に抑えたら開催する、という、
思い入れや感情が入るスキを無くし、
粛々と意思決定を進めなければならないと思います。
明確な基準が無いまま、ずるずると決断を
先延ばしにしては、説得力が失われ、どっちに転んでも
批判を受けることにもなってしまいます。
まとめ
いまだに東京五輪開催についての意思決定を
ズルズルと先延ばししてしまっていますが、
これに、一石を投じたのが、米国の
ワシントン・ポスト紙の記事でした。
IOCのバッハ会長を非難し、東京五輪中止を促す
内容でしたが、自国開催のオリンピックなのに
主体的な意思決定ができない日本のリーダーシップ
の欠如に危機感を抱きます。
誰のためのオリンピック・パラリンピック
なのか、という根本に立ち返って、
明確な判断基準を設けて、期限を決めて粛々と意思決定
していかなければ、外からの外圧や、空気を読んで
忖度して、選択させられた感のある意思決定では
どんな選択をしても賛同を得られず、結局日本人
自らが割を食ってしまうのではないかと心配です。
前例のない不確かなことに、情報を集め、考え抜き、
リスクを取って意思決定していくことは、
これからのあらゆる組織のリーダーに求められる
能力だと思いますし、このような関心の集まる
トピックに対して、もし自分がそのトップだったら
、どういう意思決定をすべきか?をじっくりと考え
てみるのも、良いトレーニングになると思います。