45歳を超えた当事者の私
サントリーの新浪社長の45歳定年制の
発言が炎上して、話題になっています。
読売新聞オンライン サントリー新浪社長「45歳定年制」発言で炎上…「ちょっとまずかった」
あまりの反響に、新浪氏は45歳以上のクビ切り
という意味ではないと、釈明をしていましたが、
やはり世の中に与えるインパクトは大きかったようです。
特に私のように、45歳以上にもなると、このような
発言には当事者として非常に敏感に反応してしまい、
思わず冷や汗をかいてしまいます。
しかし、日本のトップ経営者のこの発言を、単なる
炎上発言として、失言で済ませてしまうのではなく、
本当はどのようなことを伝えたかったのか?
発言の背景には、今の企業を取り巻くどんな状況が
影響しているのか?
経営者側からのこの発言の意味を考えていくと、
やはり時代が大きく変わってきており、かつて日本
の人口が増加して、経済成長期にあった古き良き時代
とは、日本企業のおかれた状況が大きく異なって
きていることが分かります。
むしろ定年は先延ばしではなかったか
日本の少子高齢化社会においては、老後の年金が
今後どんどん目減りしていき、受け取れる年齢も
先延ばしになっていくことが分かっています。
そういう中で、定年後は潤沢な年金で悠々自適の生活を
送れるなどという期待はできず、私もまあ最低でも
70歳位までは働くことを覚悟させられました。
人生80年程度と思っていたら、人生100年だという
ムードも高まり、ますます長く働く必要性を感じて
いる人も少なくないと思います。
そういう中で、日本のトップ経営者とも言える
新浪氏の発言は、45歳で定年だと、社会的な高齢化の
流れからは全く逆行する、定年の前倒しの話です。
しかしこれは現状の企業側からみた、人材に対する
正直な見方なのでしょう。
その意図はどこにあるのでしょうか?
力を失う日本企業
人口減少していくフェーズにある日本において、
企業の競争力においても、かつての経済大国日本の姿は
見る影も無くなり、近年世界の最先端からは、
置いてきぼりをくらっていると思える事が度々あります。
例えば、日本の全企業の時価総額は、米国GAFAの
たった4社の時価総額に追い抜かれています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB243YV0U1A820C2000000/
日本経済新聞 GAFA、時価総額で日本株超え 安定収益が資金呼ぶ
「GAFA」とは、米国の代表的なIT企業である、グーグル、
アップル、フェイスブック、アマゾン、の4社の
頭文字をとったもので、これにマイクロソフトを加えて、
「GAFAM」などと呼ばれたりしています。
米国のたった4社の巨大IT企業の時価総額が、
日本企業全体の時価総額を上回ったということで、
これはGAFAが特別で、凄まじい成長を遂げたことが大きいです。
確かに日本人の中で、今までこの4社のサービスのどれにも
全く関わらずに生活してきた人は、ほとんどいないのでは
ないでしょうか?
日本企業を全部束ねたって、米国GAFAには敵わない、
そこは仕方がない、と思うかもしれませんが、アジアで見ても
日本企業の弱体化は顕著にあらわれています。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75318110R30C21A8ENG000/
日本経済新聞 中国IT2強、36兆円減少
記事は日本、中国、韓国、台湾の企業を比較した
東アジアの企業の時価総額上位ランキングの記事ですが、
かつて1990年~2000年までは、日本は東アジアの企業の
時価総額の8割以上を占めていました。
その後、日本企業の時価総額が、どんどんその比率を
下げていき、やがて2010年代に中国企業の時価総額に
トップの座を奪われ、2020年末の上位10社ランキングには、
日本からはトヨタ自動車の6位が最高位で、トヨタ以外に
日本企業はトップ10に入っていません。
また、1位のテンセント(中国)、2位のTSMC(台湾)は
トヨタのおよそ倍の時価総額があります。
思ったよりもやばい日本
企業だけでなく世界的な論文の数などでも、日本は
米中に大差をつけられています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209AC0Q1A820C2000000/
日本経済新聞 日本の研究力、低落の一途 注目論文数10位に
日本の科学技術における研究開発力が、長期低迷に
歯止めがかからず、そういった分野の世界的な論文数も、
今は中国が米国を追い抜き、世界トップをリードしている状況です。
このように、かつて世界でもっとも勤勉で、優秀で、
先進的で、豊かになった日本が、どんどんその優位な地位を
落としていき、そこに人口減少が加わって、さらに弱体化を
加速させている状況が、日本経済、日本企業を取り巻いているのです。
新浪氏の発言はまさに、これらの状況に危機感を感じ、
人生の節目である45歳で一回会社を辞める位の気持ちになれば、
もっと20代、30代で必死に働いたり、勉強したりできるのでは
ないかという叱咤激励の意味合いが大きかったのだろうと推察します。
そして、その裏を返せば、企業側のスタンスとしても、
45歳までは会社で雇用を保証できるが、それ以降は自分の
実力で居場所をつくり、会社に必要とされる存在理由を明確に
示せなければ、給料ばかり上がったベテラン社員をいつまでも
置いておく余裕は日本企業にはなくなっている、
ということも含まれているのかも知れません。
もはや日本の年功序列、学校を卒業して一つの会社で、
先輩にかわいがられながら、順番に出世していき、
定年までクビにならず働くことが出来て、
老後をまかなう十分な退職金をもらって、
その後は悠々自適の年金生活で余生を送る。
そういったかつてのロールモデルが破綻を迎え、
ビジネス自体も複雑化し、難易度が高まっていく中で、
多くのサラリーマンにとっては、勤務先企業が
学卒から引退まで40年以上の間、存続し続けられるか
どうかも危うい状況なのだろうと思います。
米国で問題視される格差問題
一方で、GAFAなどを生んだ当の米国では、
格差が問題になっています。コロナ禍からの急速な
経済再開に際して、人手不足が深刻化しています。
求人数が高まっているのに、採用数が追い付かない状況にあります。
これは、コロナ禍でいったん解雇した飲食業などの
人手不足もありますが、GAFAなどITの、高レベルの人材が
足りないという部分も多いようで、求職者が必ずしも希望する
会社に入れる状況ではなく、求める人材のマッチングが
上手くいっていないということです。
GAFAなど成長企業はますます成長しながらも、
そこに採用される人材は世界中から優秀な人材が集まるので、
高レベル化し、そこにまた格差が生まれている状況のようです。
米国の抱える人種間の格差もいまだに問題視されていますが、
人材のスキルによる格差、所属する企業の業界による格差など、
努力すればゼロからでも成り上がれるという「アメリカンドリーム」
が、今は成立しにくくなっている状況があるのは、
先日の当ブログでも取り上げています。
このような格差と日本は無縁ではない
米国GAFAなどとますます差を広げられ、アジアの新興企業
に追い越されている日本企業にとって、今の定年が延長される
状況が、企業の競争力にどのような影響を与えるかを考えて
みると、過去の栄光にすがるベテラン社員がいつまでも主力で、
権限が若い人たちになかなか委譲されず、新陳代謝が阻害される
など、企業の競争力が上がっていく要素はほとんどありません。
むしろますます競争力を失い、米国シリコンバレーやアジアの
若い起業家によるベンチャー企業に追い越されていき、
取って代わられてしまうような危機感を覚えます。
近年は、知識や経験が陳腐化するサイクルがどんどん短くなり、
20代、30代で下積み時代からコツコツと積み上げてきたものが、
40代になったら全く通用しないという状況は珍しくありません。
それどころか、古い知識や経験が、逆に新しいスキルが
求められる仕事の中では足かせとなってしまう側面もあります。
求められる社会人の学び直し
やはり、パソコンのOSのように、自分の頭の中も
時代とともにアップデートしていかなければ、
長いサラリーマン人生を生き抜くことは難しい時代
に入ったのだと思います。
45歳ともなれば、多くの人は20代と比べたら給料だけは
高くなっており、会社の仕事もある程度そつなくこなせる
年齢になっていると思います。
ところが大企業では、社内に在籍していながら、
実際にはやる仕事が無い、という問題を抱えた中高年が
少なくないという話もよく耳にします。
要するに会社がかけるコストに見合う労働力になっていないということです。
米国のように、日本の会社は簡単に人をクビにすることが
できませんが、会社が存続の危機ともなれば、雇用の安定
などとは言ってられません。
今後は、自分が会社の業績に貢献している「黒字社員」に
なれているかどうかを、定期的に確認することが重要になると思います。
職種によって、その判断を測定するのは難しいものもありますが、
少なくとも給料に見合った会社への貢献ができていない「赤字社員」
になってしまわないように、自らのアップデートや、新しいスキル
を学んでいくという取組が大事になってくると思います。
まとめ
新浪氏の45歳定年制発言の中身を考えてみました。
45歳以上のサラリーマンが、給料は高いけれど、
口ばかりは一丁前で扱いにくく、新しい挑戦やスキル習得を
せず、惰性で働こうとしているのなら、例え経験不足でも、
気力体力にあふれ、従順に働いてくれる20代、30代の方が、
給料も安いし、割に合うという、経営者の我々世代に対する
厳しい視点がその発言に含まれているような気がしてなりません。
よくいわれる、「2:6:2の法則」のように、
2割の優秀な社員が積極的に働き、6割の社員が平均的に働き、
残りの2割の社員は全然やる気が無い、というたとえ話は、
昔はそれでも日本経済全体が成長していたので、うまく補えていた
のだと思いますが、今はそのような余裕もなくなり、言わば
下りのエスカレーターをかけ上るような厳しい時代には、
2割も働かない社員がいたら、すぐに手当てしないと、企業として
存続が危ぶまれる致命傷を負いかねないのだろうと思います。
それだけ日本企業の競争力の弱体化が深刻化しているということなのかも知れません。
定年が伸びて年老いても働かなければならないと思っていた
我々にとって、今度は会社の役に立たなければ45歳以降は
置いておけないと言われているようで、いずれにしても
厳しい要求であり、国や会社をあてにすることなく、自立して
自分の責任で生きることが求められている時代なのでしょう。